「おいしい給食」の秘密は?〜足立区「おいしい給食PJ」を視察しました

6月13日、足立区の「おいしい給食PJ(プロジェクト)」を視察しました。朝のTBS・ラジオ番組で、取り上げられていた事が、視察のきっかけです。

 

 

 

  • 導入の経緯

「おいしい給食・あだちPJ(プロジェクト)」は、平成19年度(2007年度)から事業スタート。当時の区長が就任前に、学校給食の残菜が多いこと、学校によって給食の味が違うことに疑問をもったことから始まりました。学校でも栄養バランスのとれたおいしい給食を提供する事で、残菜量の減少を目指すことから始まりました。

 

 

  • 残食率が劇的に改善!

おいしい給食PJによって、ここ14年間で、残菜率・小中平均は11.5%→3.4%(約▲73%減)、総残菜量は▲266t(約▲70%減)と、大幅に改善。残菜は焼却工場で燃やしている事から、SDGsにも貢献しています。

 

小中学校給食・年間平均残菜率(%)

学校 ①H20(2008)年度 ②R4(2022)年度 ①と②の対比
小学校 9.0% 2.5% 約▲73%減
中学校 14.0% 4.8% 約▲65%減
平均 11.5% 3.4% 約▲71%減

小中学校給食総残菜量(t)

総残菜量 381t 115t ▲266t減(約▲70%減)

 

 

  • 給食がおいしくなった「秘密」は?

 

理由①<栄養士の原則1校1名配置>

小・中学校に栄養士を原則1名ずつ配置。栄養士を中心にして、学校ごとに、「おいしさ」に配慮した、きめ細かい対応をしています。東京都職員に加えて、足立区の予算で区職員の栄養士も配置しています。

(栄養士 R5.4.1現在)

都職員 区職員
小学校67校 33名 37名
中学校36校 18名 18名

 

理由②<学校ごとに独自の献立>

配置された栄養士が、学校ごとに独自の献立を立てています。食材の購入も学校ごとに栄養士が(地元業者を中心に)個別に購入しています。

 

理由③<毎月「おいしい給食検討会」を実施>

味の向上につなげる為に、毎月1回、栄養士による検討会を開催。各学校で行われている給食の工夫の情報共有や、栄養士同士のコミュニケーションを行っています

 

理由④<おしい給食指導員の導入>

令和元年度から、ベテラン栄養士(30年以上)を配置。長きにわたる経験やスキルを十分に活かし、経験が浅い栄養士が配属されている学校などを中心に巡回・指導を行っています

主な業務内容 ①   給食室での調理の様子などを確認

②   給食の試食

③   児童・生徒の喫食時に各教室を巡回

④   校長、副校長、栄養士への助言

⑤   全校の献立の内容(メニューや栄養)を確認助言

 

理由⑤<教育委員会に「おいしい給食担当係」>

プロジェクトスタート時から、教育委員会学務課内に「おいしい給食担当係」(1名)を配置。給食改善に取り組んでいます

 

理由⑥<食育の取組み>

給食を生きた教材として、身体にとって大切な食べ物など基礎的な栄養知識を学び、自ら食を選ぶことができるようになる事を目指した教育を行っています。

足立区では、血糖値を上げない為に野菜から先に食べる「ベジファースト事業」や、野菜摂取を啓発する「ベジタベライフ事業」も行っています。足立区の調査では、子供に満足に食事を与えられていない事例(例:家に包丁がない家庭)などの課題解決が取組の出発点となっています。

 

理由⑦<天然だしの味>

だしは市販のものではなく、かつおぶしや昆布、煮干しといった食材からとる天然だしを使用。薄味を基本とし、全て食材から調理しており、デザートも既成品は、原則使っていません。

 

 

 

  • 食べてみた(味の)感想

視察終了後、足立区役所14Fにあるレストランで、学校給食と同じメニューを試食しました。器はレストラン使用ですが、給食の中身は学校で作られているものと、全く同じです。ミートスパゲッティの味は薄味でしたが、しっかりと「だし」で味つけされていました。給食とは思えないクオリティー&「おいしさ」でした。

足立区役所・14F・レストランでは、給食メニューが食べられます

 

 

野菜も沢山食べられる、おいしい「給食」!

 

 

 

  • その他の取組みの工夫

足立区では、その他として、以下のような取組も行っています。

・体験・交流事業(例:魚沼市自然教室・稲刈り、生産者との交流)

・地産地消(足立区産野菜の新メニュー、例:小松菜)

・おいしい給食レシピ集(全校共通、家庭用レシピを公開)

・  楽しく食べるイベント(魚沼産コシヒカリ給食、バイキング給食、セレクト給食、もりもり給食ウィーク、給食メニューコンクール)

・あだち食のスタンダード化(生活困難者対策として)

・野菜摂取啓発の取組み(例:ベジファースト事業、ベジタベライフ事業)

・足立区では野菜摂取が、文化として定着している

 

 

  • 横浜市の中学校給食・開始

山中市長は2026年度(令和8年度)から「全員給食」を実施する方針を「中期計画」の中で示し、同計画は昨年12月23日の本会議で議決。長年の懸案事項であった「中学校給食」の実施が、わがまち横浜でもようやく決まりました。

 

<横浜市中学校給食のサイト↓>

https://kyushoku.city.yokohama.lg.jp/

 

 

 

  • 足立区と横浜市の違い(自校方式とデリバリー方式)

足立区の「おいしい給食PJ」は、全ての学校に給食調理室を設置する「自校方式」で行っています。東京都の基準に割増をして、区の予算で「全校」に栄養士を原則1名配置するなど。財政が豊かな東京都23区だから出来る取組みだとも言えます。

一方、横浜市では、財源の問題(全ての中学校・144校に給食室をつくるお金がない)や、スピード(自校方式では10年以上の時間がかかる見込み)、多大な必要供給数(1日あたり83,000食の給食が必要)などの課題から、デリバリー方式(弁当工場などで作って、学校に配送する)での実施を目指しています。

 

 

  • 配達弁当固有の課題

先日、知り合いの方に「おいしい」お弁当の課題について聞きました。その方の会社は、名古屋で1日あたり6〜7万食を供給しているお弁当屋さんです。

・  温かい食材は、そもそも、お弁当では配達出来ない。食中毒防止の観点から、温度を一旦冷ましてから、配達する必要がある。

・  メニューの改善の為、有名ホテルのレストラン(三ツ星レストラン)のシェフをヘッドハンティング。これがメニューや「おいしさ」の改善に繋がり、大変好評である。

・  大量生産する為には、ある程度の機械化が必要。例えば、フライはベルトコンベアーの揚げ機械にしないと、「揚げムラ」が出来ておいしくならない

・  食材の原価率を上げれば必然的に「おいしさ」に繋がる。良い食材をどれだけ、ふんだんに使えるかが勝負。の一方で、1つの食材の使いまわしや、見た目(茶色ばかりにしない)や、たれやソース、ドレッシングでの「味変」など。様々な工夫が必要

 

 

 

  • まとめ

横浜市の長年の悲願であった「中学校給食」実現。これが新市長の方針で決まった事は、大変素晴らしい事です。(食材費を含めた)お金と手間をかければかける程、給食を「おいしく」する事が出来る、という事はわかっています。が、財源が限られている中で、献立・メニューの工夫や機械化など、他都市の事例を参考しながら、様々な課題を解決していく事が必要です。「給食をやるのか?やらないのか?」という今までの前段の議論は終わりました。議会の中で、「給食をやる前提で、その中身をどうするか?」の建設的・具体的な議論&提言を続けていきます。